キャリア教育システム インタビュー

インパクト体験を共有して未来を創る力を育てる プログラム開発協力:立教大学 経営学部 特任准教授 高橋 俊之氏に聞く

「全員発揮のリーダーシップ」
書籍で紹介された淑徳与野の教育

リーダーシップ教育の先進事例
本校の教育活動が紹介されている高橋先生の編著書『リーダーシップ教育のフロンティア』(北大路書房)

黒田高橋先生が昨年上梓された書籍『リーダーシップ教育のフロンティア』(図2)の中で本校のことをご紹介いただきました。この本のサブタイトルが「高校生・大学生・社会人を成長させる『全員発揮のリーダーシップ』」でしたが、この「全員発揮のリーダーシップ」という言葉がとても新鮮で、興味深く読ませていただきました。

高橋ありがとうございます。この本は、立教大学や早稲田大学などでリーダーシップ教育に取り組んでいる講師陣の共著によるものなのですが、「リーダーシップは誰もが発揮できる」という、最近の考え方をとっています。従来型のリーダーシップは、チームのリーダー(クラブの部長とか、会社の管理職とか)が、その権限やカリスマ性によってみんなを引っ張ったりまとめたりすることと考えられていました。でも、それだと、チームが生み出す成果は、リーダーの能力の限界を超えることはできません。複雑かつ変化が多く、スピードと創造性が求められる今日の社会では、チームのメンバー全員が、自分の得意なことを生かして主体的に取り組んでこそ、大きな成果が得られます。そのようなチームにおける、互いの「影響力」こそ、メンバー一人ひとりのリーダーシップです。
さらに、リーダーシップというのは天性の才能ではなく、誰でも学習によって「その人らしいリーダーシップ行動を取れるようになる」ということも重要です。このようなリーダーシップ教育の実践例として、淑徳与野のキャリア教育やクラブ活動の事例を紹介させていただきました。

黒田中学・高校でいえば、生徒会長や部活の部長のような役職に就くのは一部の生徒に偏りがちです。そういう生徒だけではなく、すべての生徒が発揮できる、その生徒なりのリーダーシップの形があり、それは、学校で教育することによって身につけることができるということですよね。

高橋そうです。リーダーの役割は、自分が一人で引っ張ることではなく、すべてのメンバーが力を最大限に発揮できるようなチームを作ることになります。淑徳与野の剣道部は、そのようなリーダーシップが発揮されているとても良い事例だと考えて紹介させていただきました。
うかがったところによれば、平日の練習はわずか1時間半。土・日もどちらかの半日しか練習しないそうですね。全国大会に出場するような強豪でありながら、それほど短い練習時間で成果が出せるのは、部全体でリーダーシップが発揮されているはずだと思ったのです。

黒田そうでしたか……。剣道部は2年連続、団体と個人の両方でインターハイに出場しました。本校は、クラブ活動参加の有無に関わらず、ほぼ全員が4年制大学への進学を希望していますので、学業にも相当な力を入れており、部活の活動時間もおのずと短くなります。

高橋練習を見学させていただき、顧問の平井健輔先生と生徒さん数名とお話をさせていただいて、「まさに、リーダーシップの実践だ」と納得しました。それは、本のなかでも触れていますが、リーダーシップ行動の最小3要素、すなわち①率先垂範、②同僚支援・環境整備、③目標設定・共有の3つがしっかりと行われていたからです。

黒田率先垂範は主体性、同僚支援・環境整備は協働性と言い換えることもできそうですね。

高橋はい。その2つは「全員発揮」がイメージしやすいですね。ちょっと分かりにくいのは目標設定・共有です。「どこの学校の部活でも目標は設定している」と思われるかもしれませんが、ここでいう目標は全員の行動基準とエネルギーにつながるものでなければなりません。
そこで平井先生は「淑徳与野がめざす剣道とは何か」を明確に「文部両道」と「美しい剣道」と定義しています。前者は、もちろん大学進学との両立。後者は、小手先のテクニックに頼らず、大きく踏み込む「面」を基本とした剣道のことです。そのような見た目にも美しい剣道を高校時代に身につけることで、大学生や社会人になっても強くなっていけるのだそうです。これらの目標があることで、生徒たちは、その高い目標に誇りを持ち、短い時間で密度の濃い練習をすることに主体的に取り組むことができていると感じました。

黒田本校には、剣道部のほかにも吹奏楽部やバトン部、バレーボール部など、県大会、全国大会レベルで活躍しているクラブがいくつもあります。みな、限られた時間の中で成果をあげているわけですから、同じことが言えるのかもしれませんね。

高橋練習後、生徒の一人は「必要な練習メニューを短時間にこなすので、集中力が大切で、練習中はすごく頭を使う」と話していました。「今打つ1本は今日は1回しか打てないかもしれない。だからこそ、その1本に真剣になるし、試合で生かすためにはどうしたらいいかも考える」と。時間が短いからこそ集中力が高まるわけですね。

黒田そのお話は「剣道」を「勉強」と置き換えても、そのまま成り立ちますね。

高橋まさに、その通りですね。実際、キャリア教育でやりたいことや今やっていることの意義がいろいろ見えてくると、勉強も行事も部活も集中して取り組むようになるのは大学生でもよくあります。それから、同僚支援のことですが、剣道部では、上級生が下級生の技術指導をするということを徹底していました。先生は3年生の指導をするのみで、下級生への指導はその3年生たちに任せているとおっしゃっていました。そのことによって伝えたいこと、学んでほしいことが生徒たちに共有されていきます。上級生は、自分が上達することだけでなく、下級生みんながどうやったら強くなれるかを考えて、お互いにアドバイスしあう。一方、下級生は「教え方が悪い」と先輩が怒られないように、必死につかもうとする。これこそ、「リーダーシップが発揮されているチーム」そのものなんですね。