キャリア教育システム インタビュー

キャリア教育のPDCAを推進 思考力・表現力、主体性・協働性を育み生徒一人ひとりの未来につながるキャリア教育 高橋俊之氏に聞く

総合学習プログラムの目的を明確にし
キャリア教育のPDCAを推進

黒田勉強でも教科外の活動でも目的を明確にして取り組んでいくことはとても重要だと感じています。特に、文部科学省がいう学力の3要素(①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③主体性・多様性・協働性)を高めていくには、学校で取り組んでいるさまざまな活動が何を目的にしているのかを意識し、そのためにはどういうやり方でやったらいいのかを考えていく必要があります。そのために、本校ではキャリア教育のPDCA化を進めています。進路指導委員会では、淑徳与野で身につけて欲しいことを「5つの力」に集約し、さまざまな課外活動が、どの力の育成につながっているかをまとめました。同時に、高校入学時のインパクト体験に始まり、職業研究、研究小論文、ディベート大会などの総合学習を互いに関連付け、自分自身を見つめながら進路選択へとつなげていこうとしています。「点」で行っていたキャリア教育プログラムを「線」でつなげていく作業です。

淑与野生が身につける「5つの力」
淑徳与野のキャリア教育において、生徒たちに身につけさせたいと考えている5つの力。主体的に人生を切り拓き、リーダーシップを発揮できる女性を目指す。

高橋PDCA(Plan Do Check Action)サイクルやMBO(Management by Objectives)などの用語は、もともとビジネスの世界から来ていますが、生徒が主体的に目標を達成するように行動するうえでとても重要なことだと思います。そこで大切なのが、先ほどの剣道部の話にもあった目標設定ですね。本気で挑戦してみたいと思うような目標設定ができれば、そこから主体性も創造力も自然と湧き出してきます。

黒田たしかにそうですね。それがはっきりと成果に現れたのが、中学生全員が取り組む「創作研究※1」でした。高橋先生の助言を受けて実施の仕方を改めたところ、生徒たちの研究内容が格段にレベルアップしました。

高橋「創作研究」は思考力や表現力を育てるには絶好の機会です。生徒たちの成長につながる行事にするために大切にしたかったのは、本当にやりたいこと、知りたいテーマに取り組むこと。そして、インターネットや書籍で調べるだけに終わらせず、世界で自分が初めて見つけ出した研究にするよう何度も繰り返して伝えていただきました。剣道への思い入れの強い剣道部の生徒たちが、どんなに苦しくてもがんばろうという気持ちを持続させられるように、どうしても知りたい、調べてみたいと思うようなテーマを見つけることができれば、生徒たちはもっともっと熱中して“研究”に取り組みます。私が大学で担当しているリーダーシップの授業でも、課題解決型学習(Project Based Learning)といって、企業から与えられた課題にグループで取り組むというものがあるのですが、どれだけ本当にやりたいテーマを見つけられるかで、学生たちの取り組み方がまったく違ってきます。

黒田実際の取り組みをみてみると、好きなロックグループの曲の歌詞をすべて書き出して特徴を調べ上げた生徒や、マンガの名探偵コナンに登場する事件の「謎解き」が実際に可能なのか実験してみた生徒もいました。研究の方法も、自分で現場に行く、自分で試してみる、自分で作ってみるという風に、手足を動かして研究を進める生徒がとても多かったですね。創作研究の発表の場でもある2月の「芸術研究発表会」は、発表を聞いているだけでワクワクしてくるような研究ばかりで、これまでにも増してすばらしいものになりました。

高橋人は、自分が知りたいことややってみたいことに取り組むときは主体的で創造的になれますよね。そして、そうやって自分でいろいろな工夫を重ねていくことで力がついてくるとともに、学ぶことや成長することの楽しさに味を占めます。味を占めると、さらにいろんなことに挑戦しようとします。大学生を見ていても、授業のアシスタント、オープンキャンパスの手伝い、サークル、アルバイトと、さまざまなことに熱心に取り組んでいる学生は、そこからいろいろなことをどんどん吸収し、成長しているように感じます。

黒田淑徳与野のキャリア教育も、そうありたいと考えて取り組んできましたが、近年の高校卒業生の進路決定の様子を見ていると、その成果が少しずつ表れているように感じます。端的に言うと、大学を偏差値だけで選ばない生徒が増えていること。たとえば、ある生徒は私立最難関の看護学科に合格しながら、「国境を越えて活躍したいから」と国際協力に力を入れる国立の大学校への進学を選びました。また、ある生徒は旧帝大に合格しながら、学部の垣根が低く複合的な学びの環境があると考えて都内の私立大学に進学しました。学力試験による一般入試での大学進学をめざしていると、どうしてもより偏差値の高い大学・学部に進学したいと考えるようになりがちですが、そうではなく、自分の学びたいこと、学ぶ環境、将来へのつながりを考えて進路選択をしているということです。

高橋それはいい傾向ですね。どうしてそのように変化していったのですか?

黒田毎年実施している卒業生インタビューで出てくるのは、中学におけるドリームワークショップ、インパクト体験棚卸し、高校1年の職業研究、高校2年の研究小論文などの取り組みをする中で、曖昧だった「夢」が、少しずつ形になり、次第に明確な「目標」となって見えてくるという流れです。特に高校2年の研究小論文は、本格的な大学受験準備に入る前に1年間かけて論文を執筆し、プレゼンテーションまで行うのですが、この時に、自分の関心のある分野、関心のある事柄について深く追究することで、考えを深めたり新しい発見をしたりする生徒が多いですね。

高橋中学の「創作・研究」の高校版ですね。やりたいことに取り組むから主体的に行動し、創造的に考えることができる──。

黒田そうです。2021年度から大学入試制度が変わり、従来型の学力に加え、思考力や表現力が問われるようになりました。試験方式も、学校推薦型選抜や総合型選抜での募集割合が増えてきています。こういった入試方式では、小論文、面接、志望理由などが大切になってきますが、書き方・話し方のテクニックをいくら覚えても通用しません。その背景にある体験と、その体験に基づいてどれだけ自分の頭で考えたかということが生きてくるのです。

高橋大学入試に限らず就職試験でも、学業成績だけでなく、それまでにどんな活動をしてきたかが問われるようになってきています。淑徳与野には、国際交流やキャリア教育のさまざまなプログラムがあり、成長につながる体験の機会には事欠きません。生徒たちが一つひとつの取り組みで「これをつかんだ」「こんな風に成長した」と自覚し、表現できるようになるといいと思います。私が接しているのは、生徒さんたちよりも、先生方の方が圧倒的に多いのですが、その先生方の熱意にいつも驚かされます。新しいことにどんどん挑戦して、ひとつずつ成果を上げていらっしゃると感じるからです。これからの淑徳与野の教育に、少しでもお力になれれば幸いです。

黒田本日はありがとうございました。